<21>入梅

<21>入梅

きのう、Tさんに写真を撮ってもらいに、都内某所へ出かけた。
案の定(?)、3台持っていたカメラのうち、ひとつが途中で壊れてしまい、メンテナンスしてる最中、急に冷え込んで来た。
『サブいですね。』
と云うと、Tさんはカメラから目を放さずに
『走ってくれば?』
と云う。
彼が冗談で云ったのはわかっていたけど、ふと見渡すと久しぶりに『草はら』の上に自分が立っている。そうだ、走ろう。こんな思いが自発的に湧いたのなんて、かつて記憶にない。くるっと一周草の上。ハアハアハア。

戻って来た時Tさんは、まだカメラを見ていた。気持ちいいですよ、もう一回行ってこようかな。なんだかものすごく爽快だ。もう一周。
『ハアこんな、早く、走ったの、久しぶりハアハア。』
『え?あれで早いの?』
Tさんはカメラばっかり見ていると思ったら、途中ちらりと私の方を見たのだそうだ。かっこ悪かったらしい。
結局カメラは生き返らず、残りの2台でがんばってもらった。

きのうのそれがあんまり気持ち良くって、そうか草の上を走ればいいだネ、と得意になって、今日も近所の川べりへ行く。

梅雨のぼうっと霞んだ川。カモの親子、飛び跳ねる鯉。ボート小屋、赤つめ草。
どっかの野球部員、女子高バスケ部。
そういうものに混じって私も走ったり歩いたりのびをしたり、好きなように動いてみる。
そう云えばきのう、撮影中に海を見おろしていて、動く灰色のものを見つけた。

『ちょっと、ちょっと、Tさん、イカ、イカ!』
『カニじゃないの?あれ?』
『カニかなあ。あ、マンボウだ!』
『マンボウ?ホントだ。・・・えー?ねずみじゃないの?』
『ああ!ねずみか!』
『あ、カニだ、やっぱし。』
『あ、カニか。』

その会話を思い出して可笑しくなった。
ひとりで笑っている私の横を、若い男のひとが自転車で通り過ぎる。大丈夫かな、この人、という風に。良く見ると彼はアルゼンチン人の友達ロケ君にそっくりだった。
人種が違っても良く似ていることは多い。
例えばパーカッションの岡部洋一さん。私は道でてっきり岡部さんと間違って会釈してしまったことが何度もある。シルエットがそっくりな人がたくさん、世界中にいるのだ。
知人が私に、『世界の岡部』を写真に撮りためよ、と云う。そして、その中から『世界一の岡部』を選べ!と。『世界一の岡部』に本人が選ばれなかったりしてね、とうれしそうに云う。
もちろんご本人にはとても云えない。

・・・話がソレにソレてしまった。走ったら気持ちよかったと伝えたかっただけなのに。いつのまにか『人のいろいろ』になってしまった。

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