<79>夜の自習室

<79>夜の自習室

あっという間に2016年も師走。

きのう、11年間と半分(11年と半年、と云えばいいのか!)、ほぼ毎月ライブをしてきた外苑前Zimagineの最後のライブだった。花束やワインをいただいて、帰宅した。うっかり定年退職したお父さんの気分になりかけたけど、いやいや、Zimagineは移転するのであって(どこになるかはまだ公表されてないけど)、私もまだ現役です。

今にして思えばZimagineは、自分のいちばん本質的な方向を再確認するのにぴったりな場所だった。いい場所をもらった、と思う。交通の便がよく、こじんまりしていて、なのにちゃんと手入れされたグランドピアノがある。そういう場所はなかなか少ない。お客さんはいつも静かで、密かにZimagineを『夜の自習室』と呼んでいた私だけど、続けてゆくうちに、ああそうかつまんないんじゃなくてじっくり聴いてくれているんだ、という大事なことに気がついた。考えたらわざわざお金払って来てくださるのだから、そんなこと、すぐわかりそうなものだけど、ひとりでやっているとなかなかそういうシンプルなことに気がつかなかったりするものだ。お恥ずかしい。そのこと含め、ライブにまつわるたくさんのことを、この店で学ばせてもらった。

そういうわけで、最後の最後は基本型スタイル、スズキアキベーシックプランで、となりそうなものを、思いっきり企画モノ『ひとりごと芸術』になった。すでにHPで公表した後で、12月いっぱいで移転と決まったのもあって。

ある日、奄美大島のスナックでカラオケをやっていて、そうだ ‘全曲’ 演歌ライブやろう、と思いついたのがきっかけ。何か思いつくとき、たいてい飲酒中なのはなぜだろう。しかも翌朝ちゃんと覚えていて、しらふになって考えても、いいアイデアだと思えることが多い。もちろん、いつの間にか人よりたくさん知ってしまったらしい演歌を、アルゼンチンフォルクローレやカンテフラメンコに長年いそしんできた自分なりのアレンジで歌うわけだけど、それだけでなく、耳で聞く『さくらえび通信』(旅行記)にしようと思い、実際の地方巡業を振り返るナレーションつきのスタイルにした。脚本、選曲、アレンジ、小道具制作、全部ひとりでやる。アホなこと思いついたなあ、と笑いがこみ上げた。こういうひとり笑いは、何よりの快感だ。と同時に、つくづく自分はメンドウクサイことが好きなんだなあ、と実感。

かくして2015年8月20日、第一回『ひとりごと芸術』2015年上半期鈴木亜紀地方巡業記。

黒い落葉、雪の降る町を、焼津踊り/おんな港町、長崎は今日も雨だった、柳ヶ瀬ブルース、カスバの女、ギターをしょった渡り鳥、お富さん、抱擁、黒の舟歌、天城越え、ゴンドラの唄、遠くへ行きたい、生命ぎりぎり、粋な別れ、夜霧よ今夜もありがとう

お客さん5人!けどわりかし好評。なによりやってる本人が楽しかった。次回もやって、と言ってもらって継続決定。

2016年1月8日、第二回『ひとりごと芸術』2015年下半期 地方巡業記。

春の海/壺阪情話、うたをうたおう、アカシアの雨がやむとき、白鷺三味線、ゆきゅんにゃ数え歌(ゆきゅんにゃ加那)、男はつらいよ、少女A/María de Buenos Aires、星のながれに、80日間世界一周、Bulerías de 網走番外地、恍惚のブルース、ブルースでも歌って、O que é o que é、出航sasurai、北風小僧のカンタロー

継続には全曲演歌はかなりハードル高いことが判明。なんでもアリに進路変更。リハーサル日程は ‘特にこの企画は’ 余裕をもって、を教訓とす。

2016年6月21日、第三回『ひとりごと芸術』2016年上半期 地方巡業記。

旅姿三人衆/風来坊笠、Desafinado(東小金井編)、女の川、大脱走、大江戸出世小唄、銭形平次、Bulerías de 網走番外地、エマニエル夫人のテーマ(税務署編)、港のヨーコヨコハマヨコスカ(善光寺バナナチップス編)、城ヶ島の雨、天城越え、手品Carmen、雨の中の二人、ポーリシュカポーレ

お客さんたくさん!!手応えあり。全曲新規ではなかったことがちょっと不満(誰もそんなこと思ってないんだろうのにねぇ)

2016年12月13日、第四回『ひとりごと芸術』2016年下半期 地方巡業記。

人生劇場/Juán del Monte、逢わずに愛して、Human Being、北帰行、Smoke on the water(常呂・常楽寺編)、おれの夢の中にある町、迷い道/Piedra y Camino、泣きとうござんす、ちゃっきり節、Bulerías de どや(どや節)/Bulerías de la Perla、女心の唄、我が人生に悔いなし、TOKIO

ついに英語に手を出した。作詞作曲者、代表的歌い手を書いた『おしながき』(プログラム)作成して満足。ああ、やっぱしリハーサルは余裕を持って、をふたたび肝に命ず。

ひとくちに『ひとりごと芸術』と言ったって、いったい何のことやら、でしょうと思うので、あらためてここに概要を書いてみた。

今後もあたらしいZimagineで『ひと芸』、続けていきたいと思っている。
(はて、出してもらえるのか? いきなりオーディション制とかになったりして)

実際に半年のあいだにツアーで訪れた土地土地のハプニング、特筆すべきキャラなど伝えつつ、共演者の紹介も兼ねてるつもりだけど、ソロだから、この企画を共演者は知らない。自分の名前を出されてることを知らない。私も伝えない。

外苑前Zimagine、11年と半年、ありがとう。
通ってくださった皆さん、ありがとう。

それなりにやり切って今日いちにちはぼんやり甘酒冬暮れる

    入江豆(←俳号のつもり)

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