春風対談 vs 笹子重治 (ギタリスト)

春風対談 vs 笹子重治 (ギタリスト)

鈴木亜紀 vs 笹子重治

笹子重治 profile

神戸市生まれ。
ショーロクラブのギタリスト、リーダー。作曲家、アレンジャー。
ショーロクラブの活動以外にも、シンガーソングライターEPOとのデュオなども盛んに行っている。
鈴木亜紀のアルバム『とてもシンプルなこと』のプロデューサー。
あまり知られていないプライベートでは、二児の父。
2000年6月21日に新アルバム、ブラジリアーナが発売された。

笹:笹子 鈴:鈴木)

鈴:じゃあ、はじめましょう。昨今は、(笑)お忙しいですか?新作の発売が6月21日ですよね。
笹:はい。ソニーミュージックからですね。
鈴:最近地方は何処へ?
笹:仙台。あそこは何か知らんが、ショーロクラブとかデュオ(秋岡欧さんと笹子さんの)なんかがすごく売れたりするんですわ。
鈴:へえ。ちょっと前、用があって仙台へ行ったんですけど、だいたいのCD屋さんをのぞいたんだけど、アタシのアルバムが一枚も見つからなかった。
売れちゃったのかしら、と思って、喜ぶ事にしたんですけど。
笹:うーん、これからは、云いたい事がある、って人の音楽はインディーズで出した方がいいかも知れないよ。逆に、インディーズを育ててゆく、って考えのほうが。
鈴:なるほどねえ。秋岡さんとのデュオ(デュオデュオ)は、オーマガトキですよね。すごく集中度の高い感じの作品で、だまって一枚聴き込んでました。
笹:あ。(どうも、と云う感じ。)ああいうものが出る、ってことは昨今あまり無い話なんで、ラッキーと云えばラッキーだな。
鈴:笹子さん、首に蟻、這ってますよ。
笹:うっそ?(と、首に手をやる。)
鈴:あ、いなくなった。ここにいてもいいことないや、と思ったのかな(笑)。で、笹子さん、誕生日は?
笹:3月21日。
鈴:というと、何座?
笹:おひつじですね。
鈴:はあ。私どうも獅子座らしいんですが、獅子とおひつじとあと、射手でしたっけ。
笹:相性悪いんでスか?

鈴:いえいえ、いいの。相性が凄くいいの!いいはずなんですけど・・・。
基本的にその3つの星座は元気がいいとかエネルギッシュだとかいうらしいんですけど。
笹:あんまりオレ、ちがうなあ。なんか性格が極端に二つに別れてて、
ちっちゃいときから物凄く気が弱くて。引っ込み思案で、人付き合いなんか下手で。
鈴:あ、だから私自分の音楽をわかって貰えそうに思ったのかな。似た者、って云うのか。ヤダヨ、って云うかも知れないけど。
笹:ヤダよ。(笑)
で、まあ、この世界に入ってからは、正反対の部分が出てきて、妙に押しが強かったり、立ち回りがうまかったり、一見朴訥に見せといて、実はこすっからかったりするんじゃ無いか、ってところが表に出てきて。
鈴:それは素敵。
笹:うん。
鈴:で、そういう怪しい才能を、いろんな分野に応用されるのでしょうか。たとえば恋愛ザタなんかに。
笹:お、来たな。
鈴:一応このシリ-ズ対談は、なんらかの形でヤオモテに立っている人に出てもらおうと思ってるんですけど、その人の専門分野の話はしないってことになってるんです。ミュージシャンなら音楽以外の話。
笹:よし。ちゃんとお答えしましょう。
鈴:笹子さんの知られざる一面について。
笹:(二本目のビールをすすめる。)
(笑)あのね。多分すごい不精者なんだな。
例えば、誰かのコンサートがあるとして。それを観に行けば、素晴しいのはわかってる。でも行かない、みたいなところがあってね。映画なんかもすごく受け取るものは多いけど、でも行かない。
鈴:うん。いや、そういうのは分かる気がします。井上靖と云う人、『敦煌』って小説書いてますけど、
あの人、あれを書き終わるまで敦煌には行ったことがなかったんですって。
笹:へ~え。イメージふくらませてんのかな。
鈴:そういう部分はないですか。

 

笹:多くのミュージシャンは、ほんとにいろんな音楽を聴いてるよね。
オレは逆に全くそういう部分がなくて。一応専門家として聴いたり知ったりしてる部分はあるけど。
ただ、アレンジなんかでイメージするとき、自分がそっちへ近づいていくよりも、自分の方へ引き寄せてきたほうが面白いような気がする。知らないで作る面白さ、っていうのが。
鈴:はい。それすごく分かります。
笹:で、そんな風に不精だから、恋愛沙汰、ってのはめんどくさいの。
だいたいが、恋愛なんて、ロクでもないことが、めいっぱい起こるじゃない。そんなのがぜ~んぶめんどくさいの。で、しないことにしてるの。(笑)
鈴:(大笑い)それもどうかと思いますけど。
笹:でも、20代のうちはそれでもいろいろあったですけど。
鈴:ま、でも日々泡のようにあらわれては消え、っていう恋の「ようなもの」は?
笹:もう、惚れるのはしょっちゅうですよ。そのくらいの泡みたいなのは。
でも、そっから先の、ああなって、こうなって、あとは白目むいて終りみたいのは(爆笑)、ちょっとねえ。
鈴:私もこのごろちょっとそんな傾向が見られますけどね。
笹:恋多き、じゃないの?ババクサくなったんですね。
(カラスがグァーグァー鳴いている。)
世間では、音楽をやる人はおしなべて、アーティスティックで、常識でははかれないものがあって。
鈴:はい。
笹:だから、乱交している、と。(鈴、笹、大爆笑。)思っているフシがあって。
鈴:スゴイケツロンダ。
笹:ほんとに乱交してるヤツもいるからなあ。
鈴:ははは。

 

笹:ミュージシャンは、素行に関しては、法律に違反しない限り何の制裁も受けないでしょ。
時間までにそこへ来ていい演奏しさえすれば。そういう環境もあって、
その人の持ってる地の部分が物凄い、濃くなっていく、ってことはあるよね。
鈴:そう。本質的な部分がすごく強化されてくんですよね。
笹:だから、恋愛、の価値もそこと関係があるんだよ。
鈴:地の部分、ていうのは、濃くなると同時に、それとまた正反対の部分もホラ、笹子さんのこすっからさみたいなのも、出てきちゃうんですよね。
笹:そう。内気、っていうのはその裏に、自分を出したい何かがあるからなんだよね。
鈴:そう、それが強いからこそ。
笹:教壇に立つと、赤面して何も言えない子供でしたよ。
鈴:へえ。アタシはねえ、トイレに行きたい、と言えない子でした。
母が私を鼓笛隊に入れたんだけど、ある日、熱海のお祭りでパレードしていて、そのまえからオシッコがしたかったんだけど、そう言えなくて、結局そのままパレードに出てしまって、パレードの最中に振り付けどおりやりながら、何食わぬ顔してオシッコしました。
で、パレードが終ることには、ほとんど乾いちゃってて、そのままバスに乗って、その、日なたくさいまま、帰ったの。何もなかったことになってるの。だから、かえって、図々しいんですよ。
笹:それ、すごい。いくつのとき?
鈴:6、7才かなあ。
笹:ん、まあ、そのころならなあ。うちの娘(6才と3才)なんか、まだ動物だから。
鈴:話、変りますけど。
笹:はあ。
鈴:こないだ、うちの兄貴が、銀座で手相を観てもらったら、アンタには妹がいるね、この人は、頑張ってれば成功するから、そう伝えるようにって言ったんですって。うふうふ。
笹:(笹子 うなづいて、)そういう、甘い話には、すがりなさい。
鈴:はい。じゃあ、今日のまとめは、甘い話にはすがる、と云うことで。(笑)

 

2000.5.9 都内公園にて

fin