“世紀の美女ツアー” 旅もよう2023北海道 -前編-

“世紀の美女ツアー” 旅もよう2023北海道 -前編-

●9月29日(金)出発

長引く夏と大荷物のせいで、琴しょった背中に汗かいて羽田着。やれやれ、近年ホント荷造りが下手。まさかの20kg超えで、朝からあれこれ頭を使う(以前は『アタシは荷造りがうまい、その点はとてもスマート』だと思っていた)。羽田出発がシステム障害とのことで一時間ほど遅れた。搭乗してすぐ寝落ちしたので、”まだ飛んでない” ことに気づかず。離陸間際のアナウンスでハッと起き、札幌の空港でピックアップしてもらう共演の立谷さんにあわてて『システムなんとかで遅れます』メール。夜はリハもあるんだから体力温存のために、飛んでるときこそ寝落ちすればいいのに、飛んでからは西加奈子『くもをさがす』を読みふける(夏の誕生日、女友達にもらった)。

着陸してすぐ機内モードを解除すると立谷さんから『それは不吉だ』との返信が。『やめてくださいこれからなんだから!』と返す。札幌は東京よりちょっとは涼しい?という程度。もう10月なのに札幌でこの気温とは(みんな口々に『やっぱおかしくなってるよ地球は』という。それをわたしたちが云い出して、もう何年になるだろう)。

夕方から立谷さんとスタジオを借りてリハーサル(スタジオ代高い!)。不吉どころか妙に楽しくてケラケラ笑いながら、しかしみっちりリハ。スタジオを出ると、空には “中秋の名月”があった。

●9月30日(土)札幌ライブ

久々に札幌JAMUSICA入り。以前いちどだけライブさせてもらい、広さもピアノも雰囲気もいい感じだったなあ、と記憶してたのに、入り口や階段の作りなんか『あれ、移転しました?』と思うほど覚えていなかった。出発前にあまりにバタバタしていたせいで、ほんとにツアーできるのか?と内心ヒヤヒヤだったけど、実に気分良く演奏に集中できて、立谷さんの曲に絡めるのも新鮮で、多くはなかったけどいいお客さんたち、楽しく聞いてくださってありがたかった。やっぱりライブが自分の活力の元と実感。

 

終わってくつろぐ立谷さん

●10月1日(日)旭川ライブ

立谷さんの車で旭川へ。とちゅう江別でランチ。バードウォッチングが好きな立谷さん、真雁の群れ(5万羽くらいだそう)が見られるところが道すがらあって、この季節しか見られないから寄ろう、と云ってもらい嬉々としたが、立谷さん、ランチ中に盛り上がりすぎて喋り疲れ。鳥はやめよう、とのこと。喋り疲れ、って…笑

ひとしきり食べたあとのコーヒータイム。すでに発話量ピーク。

夜は一年ぶりの旭川じゃずそば放哉。立谷人気にあやかって満員御礼(前日や後日に人気有名アーティスト公演があって心配されていたが、さすが)。なごやかでいい雰囲気。あっという間に『世紀の美男美女ライブ』2days終わってしまった。立谷さんは翌日健康診断とのことで、オープニングアクトで会場を温めてくれた千葉佳世子(gt & vo)ちゃんらと立谷さん抜きの打ち上げ。コロナ後・日曜・秋雨・夜の旭川、やってる店がほとんどない。やっと見つけた焼き鳥屋にてサクッとアタシのおごり(ごくたまにカッコイイぞー)。印象的だったのは、立谷さんが『別冊太陽』に楽譜を挟んで持ち歩いていたこと。外気12℃。

●10月2日(月)オフ

早朝、旭川神社にお参り。わ、寒いぞー!うれしーぞ!風呂だー!この世の一番の快楽はやはり風呂だと思っている私ですら、6月くらいから暑くて湯船には浸かれなかった。『快楽』とくればもっと色っぽかったり背徳的だったり贅沢だったりでもいいだろうに風呂。 旭川には好きな公衆浴場がいくつかあるが、その中の一つへ行くことに。おっとその前にやはりラーメン。いつもなら旭川は『みづの』(醤油系)へ行くけど今回は友人おすすめの別の店(みそが有名)に(おいしかったけど、やっぱ自分は醤油かな…)。その後、4ヶ月ぶりに湯船にどっぷり浸かり、思わず唸る。ちょうど一年前にこの風呂の休憩室で、ある漫画を全20巻のうち12巻まで読んだ(何時間いたんだ?)。そのあと続きをどこかで見つけて読もうと思いながら一年経った。さて、ここで続きを読もうと思ったが、話のスジがほとんど思い出せない。ページをさかのぼってゆくうち、寝落ち。

夜は友人と、健康診断を終えた立谷さんと合流。完璧な小料理屋で、女将(といってもあんまり年は変わらないんだろうが)がきものに割烹着で、ほどよい距離感で世話してくれる。お酒もお料理もどれもこれも夢のように美味しかった。散々飲み食いしたころ、きのうオープニングアクトしてくれた千葉ちゃんもやってきて、実によく飲む。酒強いなァ!ワタシも東京を出てから日に日に元気になってゆくのを感じた。

●10月3日(火)深川ライブ

父の故郷・深川は、大北海道全図を見ている限り、旭川からとても近そうである。実際、車なら1時間ちょっと。けど、公共交通で行くとなるとなかなかの金銭と時間のロスである(ロス、といったらJRの人に悪いですね、正当な支出ですね、でもどうしても都内の運賃と比べてしまうんだな…)。というか、駅から遠いところに寝泊まりしているこちらの問題だ。ライブ会場まで琴しょって荷物ひきずって、バス→電車ってのがどうも。一瞬気後れしたが、なんの!と覚悟を決めたところで、友人が送りを申し出てくれた(会社休んでまで!内緒です)。ということで、まずはドライバーと歌手の腹ごしらえ。途中の農園で生プルーンを買って、車内で食べると、びっくりするくらい美味しかった。もしかしてこれまで、ドライプルーンしか食べたことがなかったのかも。

 

会場は深川のコーヒー店ふれっぷ。外側の佇まいからは意外な(?)グランドピアノがある。ここはライブハウスじゃないのでPAを別で頼まなきゃいけない。そのPAさんが照明器具も持ってきてくれた(コーヒーをぼ〜っと飲んでる分にはふれっぷの灯りは素晴らしいけど、弾き歌うとなるともうちょっと『見えて』ないと。また、暗いとリラックスしすぎるので、やる気ホルモン分泌のためにも、この照明には助かった)。サウンドチェックが終わって、少し散歩。父の生家はなんと歩いて10分だった。北海道に通い始めて早10年ほど。はじめて深川で実現したライブ。次はいつこれるかな〜、と思いつつ、静かなこの町の『夜の精』のようなもの?に向けて歌った。ここのコーヒーは非常に好みだったので、豆をゲット。夜はまた友人に運転してもらって帰った。帰りにまたラーメン食べちゃった。糖質オン。

●10月4日(火)網走へ移動

外気はどんどん下がってゆく。早朝、持ってきた衣類を重ね着して、北見行きの長距離バスに乗る。前日、ふれっぷのマスターから『明日なら層雲峡あたりで紅葉が見られると思いますよ』と聞いていた。ふだん別に紅葉ファンではないが、こう夏が長くてみんなが心配していると、紅葉も気になってくる。久々に長時間車窓にてぼ〜っと景色を眺めるという『快楽』(風呂はわずかにそれを抜いてトップ)に浴し、きのうまでよりさらに元気が出てきた。自然もフシギだが、自分の精神や体も神秘だ。持ってきた西加奈子の本もなかなかにパワフルで、人生にはこうやって物事をひとり俯瞰する(『世界』とか『未来』とかを俯瞰するのが苦手なら、景色のような、見えるものを!)時間が必要だ、と痛感する。途中、向こう側の窓にチラッと、とても鮮やかな赤や黄色が見えて、とっさに『紅葉だ!』とスマホのシャッターを押したが、指で画面を広げてみると、たっくさん並んだ赤や黄色の重機だった。スマホのニュースには『大雪山、冠雪』と出ている。かたや、一面のひまわり。

このツアーのタイトルが決まって以来、飲んだバリウムを口の周り真っ白につけたまま歩いていたり、ツアー意気込みをアップしようと撮ってもらった自分ショットにビックリ(人相悪い、髪ぐしゃぐしゃ、Tシャツ首ヨレヨレetc.)したりで、そのたびに『世紀の美女がこれじゃイカンわ〜』とひとりごつっていたが、このバスの中で自分がおとといまで『世紀の美女』を騙っていたことなどすっかり忘れた。

途中、層雲峡でバスに乗り込もうとした外国人男性が、何やら長々と運転手と議論している。そのうちこのままでは遅れてしまうと思った運転手が『どなたか英語を話す方いらっしゃいませんか?』と呼び掛けた。とっさに手を挙げてしまい前の方へ進みでる。どうやらその人はただ単に予約なしで『阿寒湖』に行きたいらしいのだけど『アカノ』と発音していたり双方に微妙に勘違いがあったりで、話が通じなかったようだ。そこへワタクシがサラッと解決してさしあげた。車窓快楽効果で頭がちょっと良くなってたかも。

北見到着。ここから電車で網走に出ようと思っていたが、このあたりの駅には情緒はあってもエレベーターやエスカレータがないことが多い。大事をとって北見からまたバス乗り継ぎ作戦でゆくことにした。CDも少しは売れて消耗品も減っているはずなのに、一向に20kg切ってなさそうな荷物。いくらワークマンで買ったスニーカーがとても腰にいいみたいでも、この荷物、危険だ。運良く『あのもしお名前は?』と聞きたくなるような紳士が手伝ってくれたとしても、その方の腰に悪い。てことは、北見からまず女満別空港行きのバスに乗るべし。ふたたびバスを待っていると、さっきのバスに乗っていたらしい女の人が寄ってきて、『あのう!さっきめっちゃかっこよかったです!』と弾けた様子でいう。照れて、いえ、その、とか云ってるうち、『いやほんとに!』と念押しされて、くったくなく『ありがとう!』と答えられた。やっぱり褒められるといい気分だ。

空港で腹ごしらえして、こんどは網走行きのバスに乗る。あとから乗ってきた人たちが『ひょっとして、おたくも電車が止まってるせいでバスにしたんですか?』と聞いてきた。電車止まってたのか。バスにしてよかった。なんだか今日は勘が冴えている。

網走につくと、停留所のすぐ目の前が、手配してもらったホテルだった。部屋に入ったとたん、海外の旅(しばらくしていない…)で感じる安堵の感覚を思い出した。パタン、と閉めて、ほっとする、何か考えるべきことをちゃんと考えられそうな感じ、というか。古くて質素だけど、清潔。ユニットバスも変な臭いナシ。なんの不足もない。窓の外に止まっているJRの車両が見える。西加奈子の続きを読みつつ、ひと眠り。室内がちょっと寒いせいでよく寝られた。

夜は翌日のライブをオーガナイズしてくれたS夫妻に食事に連れていってもらう。忙しい日々の中ライブを組んで、オフ日にもわざわざ隣町から出てきてこうして迎えてくれる。ほんとうにありがたい。食倒れそうになってホテルに戻る。夜になって館内暖房が入ったらしくかなり暖かい。そして外気はかなり冷えてきた。<後編へ>