“世紀の美女ツアー” 2023北海道 -後編-
- 2023.10.22
- talk / note / etc.
●10月5日(木)網走ライブ
ソロになって、若干の脳の『配線切り替え』を要したものの、順調。網走は朝から雨。ライブ会場ちぱしりまで自力で行くことになっていたが、朝ホテルをチェックアウトしてから夕方の会場入りまで、はて、どこでどうしよう?この雨のなか大荷物抱えて? 漫画喫茶だとか、それこそ風呂だとか探したが、コロナ中に閉鎖したところばかりらしい。旅の雨は好きだが、どんどん大きくなる雨音に途方に暮れているうち、スマホが鳴った。今日は朝から忙しいはずの、ゆうべのSさんが、雨を心配して予定変更して来てくださるという。なんとありがたい。そしてSさんはワタシを近代的で最も退屈しなくてお金もかからない場所を案内してくれ、また仕事へ戻った。
『図書館。それだよ!!』。これまでもこんなケースはあって、いつも図書館に行ったのに、頭が固くなったのか今回は思いつかなかった。しかもそこには美味しくてリーズナブルな食事スペースもあった。幸い琴と荷物もある方法で預かってもらうことができ、おかげでワタシは雨の中を『モヨロ貝塚』遺跡まで歩くことができた。ひとけのない展示室で学芸員の人がマンツーマンで丁寧に説明してくれる。アイヌとは別に、『オホーツク人』というのがいたのは知っていたが、詳しいことはまだわかっていないという。興味は尽きない。
また図書館にもどって、西加奈子を読み終える。異国に暮らしてがんになった筆者の実話だ。たいへんな話だが読後にすがすがしい力が湧いてくる。そのあとも少し時間があったので『はだしのゲン』を手に取る。ニュースでは毎日イスラエルとハマスの紛争激化が伝えられている。偶然今回のツアーソロ編ではパレスチナの歌『聖地の守り人たち』を毎回歌おうと決めていた。
大荷物を抱えて図書館からタクシーで会場入り。高台の、グランドピアノがある気持ちいい空間だった。なにしろ9年ぶりの網走。前回までのお客さんたちに宛てた封書やメールも返ってきてしまい、私からはほとんど告知できていなかったが、Sさん夫妻とお店の尽力のおかげでいい感じに席が埋まってくれた。終演後は関係者でお店の畑で採れた野菜の手作りお惣菜で乾杯。ツアー中にこういうものがいただけるのは本当にありがたい。胃袋の中の小人たちが『やったー、やったー!』と小躍りしてる感じだ。雨も上がったところで、川湯から迎えが来てくれた。ほんとうに、ほんとうに、みなさんにお世話になっておりますスズキであります。
●10月6日(金)川湯でオフ
前の晩、川湯ー網走という結構な距離を、夜明け前から夜遅くまで働き通しの人に迎えに来させ、そしてこの素晴らしき観光地(なのに観光地のデメリットみたいなものを感じたことのない)川湯駅前という一等地の民家に逗留させてもらうなんて、一見ミュージシャンがお気楽野郎に見えるのも無理はない。一年ぶりの川湯、自分はオフでも周りはみんな仕事している。そうだ、ひさびさに釧網線に乗ろう!以前、この釧網線を存続させるためのイベントをこの川湯駅で雪の日、歌ったことがあった。『網走番外地』も歌った。車掌さんが喜んでくれたっけ。残念ながら、数回訪れた対岸の日本海側を走る留萌本線は廃線になってしまったけど。
降ったり止んだり 白樺に似せた?電柱
釧網線車内 釧網線車窓
JR美留和駅 夜は釧網線の駅で生まれた『せんちゃん』と遊ぶ
●10月7日(土)標津でライブ
このツアーでは初めての場所が多い。ここ標津IsLAND STUDIOも。標津といえば、私が2019スラ酔いツアーで琴を練習しに行ったはずの標津港で、同行のムーラ村重氏の見事なカレイ釣りを目の当たりにし、琴を竿に持ちかえ自らも瀑釣、すっかり釣りにハマるきっかけになったところ。今回は釣りでなく初ライブ。このスタジオのオーナーはちょっと前まで東京でピアニスト活動をされていた白土(女性)さん。お会いするのが楽しみだった。逗留中の川湯で車を借り、ひとり鹿を避けながら1時間半ドライブ。外壁のちょっとした飾りがなんとなく異国風というか古い昭和風というか、可愛らしい通りに面した、ガラス張りのスペースだった。ここのピアノはグランドピアノの中でも大きなコンサートグランドで、弾いていると低音に包まれる。よく鳴るけど、歌とケンカしない響きなのがまたすばらしい。以前から聞いてもらうのに理想的な場所ってどんなだろう?と考えてきたが、ここはソファで聞いてもらえるまさにソレだった。お客さんたちも楽し気でのびのびしてる。地元の話も聞けた。中でも驚いたのは、なんと標津には『シャケの配給』なるものがあるということ!もっと標津を知りたいと思わずにいられない。
旅が進むごとに疲れるどころか体調もキゲンもますますハイになっている。再会も出会いも嬉しい。今度来る時は標津に一泊しようと思いつつ川湯へ、また鹿を避けながら帰った。
開演前 同じ衣装笑
●10月8日(日)オフ
一本やってはオフ、また一本やってオフ。なんと贅沢な行程。その土地を味わう時間もあるし、十分休みを取りつつ長距離移動とライブができる(男のツアーミュージシャンみたいな過密スケジュールは自分にはムリだ)。
ツアーに出る前から、病気のためにここ数年会えていない釧路の友人に連絡を取っていた。未だ人に会いに行ける状態でないが、もし調子が良かったら連絡する、との返事だった。彼女にこの朝もう一度メッセージを入れ、しばらく待ったが既読にならない。あきらめて、地球上でいちばん好きな場所といっても過言でない野付半島に、また車を借りて行くことにする。車でなければ行けない(とても行きにくい)ところだ。秋の野付は糠蚊がいっぱいいる。ヌカカ。糠みたいな色した、あれ?物が二重に見えるようになっちゃったかな?と思わせるような姿の、悪いやつ。よそ者の血は彼らには物珍しいようで、以前ひどい襲来にあった。今回はヌカカに備えて大きな虫除けスプレーをわざわざ持ってきていたのに、それを持たずに野付へ来てしまった。こういうウッカリも近年多い。20kg越えの甲斐なし。幸い、秋は秋でも前回とは時期がちょっとずれているせいか、今回は全く刺されずに済んだ。いちめんのススキ。いつかは海底に沈んでしまうと云われる、海と海の間の細い道。ここへ来ると余分なものが削ぎ落とされるようで、いつも落ち着く。 向こうは国後。素晴らしい天気。
野付から北へ、斜里経由で帰ろうとしたとき、朝の友人から連絡が入り、急遽会いに行けることになった。手土産でもと思ったが、日の光と牧場と牧草地ばかり。全くの手ぶらで行った。
彼女はこの1年と半年、外出していないという。負担をかけないよう、30分でおいとまするつもりだったが、意外に話ははずんで1時間半いた。元気になって欲しいと願いつつ、会えたことに満たされて、素晴らしい夕日の中また川湯へ戻った。
●10月9日(月祝)川湯ライブ
いよいよ、ワタシの北海道での基地とも言える川湯ライブ。朝、北海道でのユニット、スズキ×スズキの相方である鈴木裕君(札幌)から、彼も偶然川湯にいるからそちらに寄るとの連絡あり。コロナで数年会えていなかった相方に会えるとは!この日のソロライブ会場でもある森のホールで、共にケーキを食べた。
夜。ふと、せっかく4着も衣装を持ってきたのに、ず〜っとおんなじ一着を着ていたことに気づく。今日は変えるぞ。本番前、会場を見渡すと、なんときのう会いに行った友人の姿が!釧路からの結構な距離をお母様が運転してくれたようだ。嬉しかった。彼女だけじゃなく、川湯の見知った顔・見知らぬ顔、いろんな顔が揃って来てくれた。いろんな思いがこみあげる。終演後の打ち上げもみんなでご馳走をいただき、みんなのびのび云いたいことを云って笑った。話の尽きないたっぷりした夜。
スズキ×スズキのスズキ 打ち上げ
茶色が美しい
●10月10日(月祝)塘路ライブ
標茶。駅前に手作りクレヨン工房Tuna-Kaiはあった。この塘路の駅というのが、まるで居酒屋のような佇まい。ワタシも初めてだが、Tuna-Kaiさんにとっても初ライブ。店主の伊藤さんは、ピアノが欲しいと思っていたところ、譲ってくれる方が現れたからぜひライブを、と思ったんです!と、とても嬉しそう。光栄なる初ライブ。川湯の仲間に乗せてきてもらい、みんながピアノの移動を手伝ってくれ、店主の息子さんが低すぎるピアノ椅子を高くするための台を、得意の木工で作ってくれた。パンやコーヒーの出店の人たちもいて、お祭り気分。本番はありがたいことに会場いっぱいにお客さんが入ってくれた。あまりにシーンと聞いてくださるのでどうしようかと思ったが、結果的にとても暖かい雰囲気になった。おかげさまでCDも減った。お世話になってる釧路の人たちも来てくださり、おみやげにシャインマスカットとワインをいただいた。ここに手作りインクの小瓶をひとつ買った。全行程、自分なりにやりきった満足(この世での一番の『幸せ』だ。風呂は一番の『快楽』ね)と共に、川湯の女子たちと夜の釧路へ繰り出す。
まずは予約してあったビジネスホテルにチェックイン。ビジホといったって屋上露天風呂だってある。そして繁華街に出てイタリアンで乾杯。解放感に包まれて最高の打ち上げ。
もうクリスマスみたいな釧路の夜。
満腹のあと、満員電車で帰る必要もないし、屋上露天風呂が待っている!風呂上がりに冷やしたシャインマスカット!ルンルンでホテルに帰り、風呂(森や林の中じゃなく近隣ビルのネオンを見ながら入るのは新鮮!)もシャインマスカット(かがやく大粒!)も最高だったが、数粒食べたあとみんな即寝落ちした。
●10月11日(火)戻り日
仲間のひとりが川湯で葬式の手伝いに駆り出され、一足先に釧網線で川湯に戻ることになった。やはり地方、ご近所との協力体制は大事にしている。みんなで和商市場で買い物して別れた(ワタシはまた20kgオーバーを危惧しつつも、機内で食べるシャケおにぎりと、しいたけと、シャケのしょうゆ漬けパックを買った)。もう一人が車でワタシを釧路空港に送ってくれることになって、とちゅう、釧路動物園(!)に寄った。かなり楽しかった。この充実内容でたった580円とは。園内をくまなく歩き、やはりワークマンのスニーカーはいい!と思った。これを買ってから、2年患った腰痛が治ってきた。原因はウードの練習をヘンな姿勢でしているせいだと思っていたが、靴だったのかもしれない。なんの音もしないので猫にでもなったような気分で楽しいし。4時ごろ、再会を約束して釧路空港で別れた。東京はもう涼しくなっただろうか?
●後日
思ったより涼しくなっていた東京。早くも日常のバタバタに戻ったところに、なんと、標津から『配給のシャケ』のおすそ分けが届いた。冷凍も塩もしていない生鮭なんて初めてだ。早速近所の同業食いしん坊たちを呼んでシャケ会をしようと連絡したが、みんなツアーで出払っていた。まあ、コロナでくすぶっていたころに比べれば良きことである。てわけで、シンプル塩焼き、ムニエル、ホイル焼き…いろんなバリエーションでひとり占め。臭みやバサバサ感は皆無。なんと贅沢な日々だろう。
今回の旅では会いたかった人にたくさん会えた。この旅の余韻、できるだけ長く続きますように。北のみなさん、関わってくれたみなさん、本当にありがとう。
fin
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