<01>座右の銘

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お好み焼き屋、いい値段をとる。
私はお好み焼き歴がとても浅く、よく知らないし、特に食べたいと思ったこともない。
それでもどうかするとつきあいで食べに入ることもあって、その度に必ず高いと思う。
店にもよると思うが、油をひくのも焼くのもお客で、お店の人は適当にグザイを器に入れて卓に運ぶと、あとはみんなで世間話をしている。食材も特に高級なものもない。なのに高い。

おととい入ったお好み焼き屋は、T市の花街だった界隈を抜けたところにひっそりとあって、おばあさんとおばさんがやっていて、やる気なさそうな割には清潔で美味しかった。どの店で飲んでも大して差のなさそうなビールまでもが、おいしかった。
花街で用を済ませてここでお好み、としたら、それはそれでまあ情緒だ、と思った。花街帰りだったら割高感も受けてたとう。ひっそり感もインビに。
奥から、なじみの客達と長唄の話で盛り上がってるのが聞こえた。

きのう入った、若者の町の曲り角まえのお好み焼き屋では、(T市のお好み焼きで味をしめた私と友人はまたもお好み焼きを食べたくなった)あまりの不味さに辟易した。
メニュー看板の意味がわからず、その時点でなんだかもうイヤになったが、店員の若い女性が、投げやりな態度に誇りすら持っていて、まるで演じている風でもあって、それでさらにイヤになったが、さらに調理場のすみのおおきなバケツに粉が溶いてあって、その中に撹拌用の電動ミキサーがブタのえさでもつくってるみたいにつっこんであった。
出されたお好み焼きは、豚肉がニンゲンの尿に半日も漬けてあったかのような臭気を発し、ソースは脳がやられそうに甘く、キャベツの芯が歯ごたえなく苦味を発し、これ見よがしにのっけられたエビはなんの下処理もなく塩すらふっていなく、アンモニア臭い塊にすぎなかった。それらのグザイの間にあおのり、モチ、とろろコンブ、イカ、卵、麺、ネギなどが入り組み、おまけにたくさんの味の素を目の前でふってよこし、調味料の味ばかり。
ビールもなぜだか、ビンなのにヘンな味がした。
それで一品1,500円。

同じ大衆料理のラーメンは、競争も激しく、店員は厨房に集って憩うヒマない忙しさで、店主は日夜、味の研鑽と従業員教育にはげみ、600円前後で十分おいしいのがいただけるところが多い。バブルはじけたあとは特に。
なのに、お好み焼きにはバブル崩壊もものともしない。治外法権。

お好み焼きは私が油をひいて、私が焼くのでいい。コゲてもなんでも私のせいにしてくれていい。それも楽しみの一つでいい。だけどもっと安くすべきだ。

昼間、新しいアルバムの許諾申請をしに行って、小売価格を記入するにあたって、税込みか税抜きか迷い、果たしてこの登録には意味があるのだろうか、と苦い気持ちで大金を支払ってきた私にはあの1,500円の暴力的なまずさが、泣きっ面にハチであった。

世界はどの方角も無限。うまくて安い、まずくて高い、もう無限。
『モノの値段とカチは別のものである。』
やっぱり座右の銘である。

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