<02>あぶらぞこむつ

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先日、故郷焼津市の紹介番組をつくる、という企画に呼ばれ、焼津にてロケを行った。

焼津港でのシーンでは、あまりの寒さと強風で体がふらふらし、そのまま水に落ちるかと思った。
鼻水と泪で、何か一生懸命喋っても、神経が異次元にあって、どうしても語尾が・・です、ケド、と、ケドがついてしまうのだった。
最後のおでん屋『無我』にて、おでんをつつきながら焼津を語る、というシーンでは、焼津ならではのタネ『へそ』(カツオの心臓)、『黒はんぺん』などあって、みそをたっぷりつけて食った。
『へそ』は新鮮さが命なので焼津にいてもいつでも食べられるわけではなく、ましてや東京などでは見たことも聞いたこともない。

さて。
撮影の準備をしながらふと、長年気になっていた『さっとう』について、同行のレゲエ歌手とおでん屋の主人に尋ねてみた。
『さっとう』は正式には『あぶらぞこむつ』、意としては、『脂・底・ムツ』である。ムツ、は魚のムツ。
ちなみに、新明解の国語辞典に魚のムツはのっていない。だから、あぶらぞこむつ、というのも正式な名前ではないかもしれない。
なんで『さっとう』と云うかというと、由比・興津あたりをサッタ峠と呼ぶらしく、その辺で偶然あがることが多いので、『さっとう』と呼んでいる、とのことであった。

この、『さっとう』。
取り引き禁止の深海魚である。
私は焼津出身でも漁業と直接関係のない家の出で、一度も食べたことはない。
レゲエ歌手及び、元漁師である『無我』の御主人は、何度も食べたことがあるそうだ。美味だそうだ。
云うには、さっとうは容貌の醜い深海魚であって、全身が脂の固まりのようで、ふつう少しあぶって食べるのだそうだ。
3切れまではいいが、5切れ食べてしまうと、人間には消化不能なその脂が、そのうちチュルーと不随意に肛門から出てきてしまうのだそうだ。
いわゆる『下痢』というのとは違い、全くの不随意なので、わずかなコントロールも効かず、便秘の人にも何ら効果はないのに、それだけがチュルーと出てくるのだそうだ。

私は以前この『さっとう』がどうしても食べてみたくて、知人に尋ねたところ、ではモノが入ったら宅急便で送ろう、との返事をいただき、その後、そろそろです、と通知があったが、待てどもモノはとどかなかった。
どこかの家に間違って届いてしまい、ナンだナンだと云いつつ、その一家が食べ、翌日一家の全てが不能になったりして、と心配していたが、後日、あれは手違いだった、もう少し待ってくれ、との連絡をもらった。以来おあずけである。
3切れで大丈夫、5切れでダメというなら、4切れではどうか。
ちなみに、体が慣れる、ということはないそうで、屈強な男子も食べる毎にチュルーになってしまうとのことだった。
実際、取り引きしてお縄になった人もいるそうで、立派に前科者になってしまっているらしい。
食べると、それで気持ちよくなったり、幻覚が見えたりということはないそうで、そう言う意味での取り引き禁止ではないらしい。

市町村合併があっちこっちで行われている。
焼津も隣の市や村と合併するだろう、とのことであった。いったいナニ市になるのだろう。

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