<48>野良しごと

<48>野良しごと

久々に実家に帰って、長そで長ズボン長グツに着替え、野良しごとをする。どんなに汗をかいても汚してもいい。使命は、とにかく余分なものを除けること。シンプル。
これだけは、どんなにやっても目が疲れないし、普段使わない筋肉も使えるし、お金もかからない。見た目が明らかにスッキリするし、蚊が減るし、植物にもいい。何よりその後のシャワーが普段の10倍気持ちいいし、メシも旨い。スカっとする。

そういえば、私の記憶にある祖母は、いつも野良しごとをしていた。していると、時間を忘れてしまうらしく、食事に呼んでも、戻ってこなかった。鈴木家は食卓につき、ほっかむりして黙々と草をとる、しゃがんだ祖母を見ながら、噛んでいた。母は、アレはボケの前兆じゃないか、何か贖罪の意味でもあるのじゃないか、と噛みながらポツリと云うことがあった。

時が経って、母も野良しごとに打ち込むようになった。かと云って、庭はいつも雑然としていて、剪定の腕もあがっていない。時間と労力をかけて、何をやったのかが不明。ただ、庭師の技術は確かにすごいが、日当もすごいし、何より、抜いて欲しくないものを抜かれてションボリしたことがあって、だから自分でする、と云う。アンタはちっとも電話をよこさない、とグチるから、たまにはと電話しても、ちっとも出ない。野良をしてるからだ。

さらに時が経って、私も野良しごとに打ち込むようになった。持って廻り、だ。庭を所有していないから、つつましいベランダに30コもの大小の鉢を置き、頂いた苗にはくれた人の名をつけて、サン付けで声をかけている。成長ぶりのいちじるしいのは「泉サン」だ。「島サン」もすごい。
ベランダはベランダでいいけれど、やはり地植えのロマンは尽きない。たまにはミミズやカナヘビに出会って、ちょっとゾクっとしたい。

だから、庭のある人に、野良しごとするときは声かけてね、手伝いに行くから、と云うと、ええ~、マジぃ?と来る。その人にとって野良しごとはしょうがないからやることで、「スカっとゾクっとしたくて、人のまで手を出したい気持ち」がわからないのか。そんなことさせたら悪いと思っているようだ。だから、「ホントに。絶対手伝うから。自分の分はちゃんと道具も持ってくるから。」と何人にも云い置く。…けれど、実際に召集のかかったことは一度もない。

体は衣服で覆い尽くし、その下には虫除けスプレーなど咽せながらつけても、顔だけはむき出し。「自然派なんとかクリーム」なんて塗っておきながら、そういうものを吹き付けるのもヘンだし咽せるし。だから、ふだん蚊がキライだ、と執拗に宣言しているけれど、当然、蚊は顔を狙ってくる。ボコボコになる。ヤバいカンジになる。許せない分、庭の風通し確保にヤッキになる。何やってんだか、と思うし、顔は異様にかゆいが、やはり確実に何かのカタルシスがある。

そう思うと、あれほど云っても、野良やるよ、と声をかけてくれない知人たちは、カタルシスをひとりでじっくり味わいたいから、私に声をかけないのだ、という結論になった。

 

 

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