<14>美保純のこと

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自分の好きなものについて、この場にあれこれと羅列するのは気が引けるので、いつも少し遠慮している。だけど私にも音楽はもちろん映画や本などに関して、長年の内にできた好みがある。たまには微々たる力でも、価値の提示のようなことを別な所からもしていかないと、果ては私のささやかな表現活動にも影響し、生きてるうちに果たせないことがさらに増えそうだから、これからちょっとは書いて行こう、と思うようになった。

テレビをつけたら『男はつらいよ』をやっていた。
遠い昔に全作見ているが、いつもあのキャスティングはすごいと思う。渥美清、倍賞千恵子、下条正巳、太宰久雄、三崎千恵子などはもちろんだが、特に美保純。
わたしはあの人を個人的には知らないので、一ファンの幻想でしかないかもしれないが、たこ社長の娘のアケミちゃんという役所、ほかに考えうる女優さんを思いつかない。
あの煮ても焼いても食えなそうな感じを持つ彼女にピッタリで、あのシリーズには随所に天の力が働いている、という気がしてしまう。彼女が全作に出てくるわけでないところもまたいい。

美保純は静岡のひとだ。
個人的なことは何も知らないが、その顔つきからするに、いろんなものがいっぱいつまっているように見受けられる。業が深そうで、でも正直そうななんと魅力的な人だろう、と私は思っている。
個人的なことは知らないし、そもそも私の預かり知らぬことではあるが、私生活ではモテるんだろうか?
ああいう人を曇りない目でちゃんと受けて立てる男性がいるんだろうか?

静岡という、根はいいんだけど保守的な土地であの時代、ああいう個性の人が安定した幼少期を過ごしたとは考えにくい。
・・と、いらぬ思案をしたりして、ご本人には申し訳ない。単なる幻想で事実とはかけ離れてるかもしれない。でも、そういうことを何処かの誰かに思わせる、という魅力に、多分たくさんの人が魅了されてきたことだろう。

ちなみに、このシリーズの他の作品に、焼津の女として登場したのが、岸本加世子で、この人選にも私はかつて手を叩いて喜んだ。この人も静岡出身だ。

静岡にはこういう女が本当にいる。
静岡にもいろいろあって、海側と山側では気質がちがうし、駿河と遠州でもまた違う。
私の云っている静岡は、海側の駿河のことだ。そうしてこういう女の良さを、山田洋次監督という人はしっかり引き出してくれているし、それを『江戸っ子』の主人公の妹分のように登場させてくれたのは、わがことのようにうれしい。

ちなみに映画の中には、楽しいとか役者がうまいとか味があるとかだけでなく、寅さんという人格にちゃんとその生い立ちが簡潔に反映されていて、とことん人間が追求されていて哲学的である。
たまにマンネリだとかいう声もあったそうだが、私なんかは一作見終わると、『なんだかんだ云ったって結局そういうことだよな』と、納得させられて飲んでしまう。

貰いもののシェリーがちょっと残ってて、美保純に乾杯。文中敬称略にて失礼します。

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