<56>旅ノオト

<56>旅ノオト

昨夜、台湾から帰ってきた。どんな旅だったかを詳しく書くと、自慢ばかりになってしまい、読む人が腹立たしいだろうから、書かない。ただひと言で云うと、生きてるといいこともあるもんだなホントに、と思った。

いつも旅に出るとき、ポケットに入るくらいの、80円くらいのノオトをもってゆく。ここ数年しぜんとそうしている。便名や数人の連絡先、出会った人の名前、特徴、泊まったホテルなどをメモっておく。

以前はそんなもの持ち歩かなかった。
なぜかな、と思ったら、○川義夫さんや、堀越○秋さんなど、60過ぎてもギンギン元気な人々はみんなそういうのを持っていたことに気づく。打ち上げなんかで同席した人々の名前や、似顔絵(長髪かとか、メガネの人かとかが分かる程度の)、その日の誰かの’名言’などを、記しているのだ。私はさすがに普段の生活では持ち歩かないが、旅のときだけ、気がつけば持ち歩いていた。
つまりだんだん、年と共に、毎日が忘れてしまっては勿体ない貴重なものになってゆくからだろう。美しきことだ。

それから、ここ数年の旅は、荷物が増えた。行きも帰りもだ。10年くらい前に手に入れた、solo tourist というメーカーのキャスター付きソフトバッグを愛用していて、それだといくらでも入ってしまうので、ついついいろんなものを持ち帰ってしまう。このバッグ、あんまり使い勝手がよく丈夫、いくらでも入るのに、少なければ少ないでペッタンコになってくれ、自分となんだか一体感があってお気に入りなので(つまり目立たないのに仕事はちゃんとしてくれるので)、知人たちにプレゼントしたが、そのときはすでにその型がリニューアルされていて、
1,色のいい感じでススケたのがなくなってしまった
2,キャスターの音がガラガラうるさくなってしまった
3,全体的なデザインが好みでなくなった
などあって、知人たちの使っているのを見たことがない。とくに荷物がガラガラうるさいのは、タクシーなんかにすぐ乗ってしまう人にはいいけれど、ひきずったままよく歩く人には思いの外恥ずかしく、ストレスになるものだ。なんというか、肩で風切ってオラオラやってるみたいで。だから、私のそれが壊れたら、知人にプレゼントしたやつを回収しようと思っているが、うるさいのは残念。

・・・で、自慢はひとり占めするとして、不自慢ばかりを書くと、両足に歩きすぎのおおきな水ぶくれができて、たいそう痛いのと、帰宅したら下の人から苦情メモが来ていたのと、もろもろの請求書、植木にアブラムシ、宣伝のメールや手紙の山ばかりで、一気に高揚感がかき消される。私もこういう活動している身だから、宣伝させていただくことはあるが、お出し致します折りには、いつもチクリと痛みがある。肩で風切ってオラオラやってるみたいで。
と同時に、チクリとしてしまう裏には、いつもどこかで自分の存在をかき消したい願望が自分にはあることにも気づいている。人前で歌ったりするには、かき消しちゃ困るんだけど。これはいわゆる、エスとかエムとかいうやつの、エムの根幹心理なのだそうだが、私は別にエムではない。

まァとにかく、ご承知とは思いますが、キャスターはより静かなほうが嬉しいです、solo touristさま。

 

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