<60>未練のタナゴ

<60>未練のタナゴ

月2回ほど池袋にゆく。
たまに帰り道、ある観賞魚屋をのぞく。いつも、ひととおりながめては、ふらりと出る。
思えば、過去そこで何度もタナゴに会っているのに、なんでこのあいだわざわざ愛知の道の駅でタナゴを衝動買いしたんだろな?と、二日まえ、池袋を歩きながら考えた。そして理由がわかった。

道の駅では、タナゴが500mlのペットボトルに入れて売られていたからだ。さんざん使ったペットボトル。キャップの色もさまざま。『なっちゃん』だったり『午後の紅茶』だったりしたのだろう。
ボトルにはラベルが貼られていて、売り手の名前と電話番号が明記されていた。女の名前だった。どんな人だろう、タナゴを卸す女とは。なんとなく65才くらいの、エプロンをした農家の女を思い浮かべたけれど。

そのペットボトルに、私は惹かれたのだ。そのラフなあり様に。だって、見れば観賞魚屋のタナゴは、いや、タナゴだけでなくイグアナもトカゲもグッピーも蛇たちも、おしゃれな店内にきちんと、万全の管理体制で売られている。売られているというより、暮らしているという様子。『生類哀れみの令』から云えば表彰もの。全体的にピカピカしていて、ポイントカラーはグリーン。店のドアも木の扉で、まるでエコ意識の高いカフェのよう。

そんな店内だとタナゴが高級に見えるのだ。タナゴを飼うことは、新たな何事かの趣味を始めることで、ゴルフを始めるにはパターを、ギターを始めるにはギターを、買うのと同じように、当然あれやこれや買いそろえなければいけないってことが、パッとみてすぐ思いつく敷居の高さ。おとなの娯楽。
でも、道の駅のペットボトルは、あまりにこともなげで、こどもの日常、みたいだった。川での殺生が大好きだった幼少時がよみがえってしまい、つい買わせるものがあったのだ。川で捕まえたものをそのまま持ち帰っただけだもん、という想定を、脳にさせたのだ。

あれからまた数日たった今日、私は群馬に歌いに行った帰り、群馬の道の駅に寄った。花卉業さかんな群馬のことだから、私好みの植木もあろうと。けども。
またそこでタナゴに出会ってしまった。こないだ愛知のタナゴは3匹で490円だったけれど、群馬のタナゴは2匹で980円!ビニル袋入り!
私は気がつくとまたタナゴの前に座り込んでいた。高い、けどヤバイ、欲しい。・・・うっかりまた買ってしまいそうになった。

 

 

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