column

6/9ページ

<38>リスキー・スズキ

  • 2008.02.26

住処を探している。もう長い。去年の春から探している。 たくさんたくさん見て、ここに住みたい、ここに住む自分が想像できる、と思ったところは一ケ所しかなかった。でもそこは築24年。借りるならいいけど、築24年を買えば苦労することは目に見えている。それがイヤで持ち主も売ってしまいたいのだろう。あの頃のものはコンクリートも薄いから、ピアノなんか置いたら防音にいくらかかるか知れない。 思えば生まれてはじめて […]

<37>乙女の祈り

  • 2007.07.13

中華料理屋に入ると、ゴマ油の匂いに混じって『乙女の祈り』が流れている。 バダルジェフスカ作曲の、というと、ピンとこないかも知れないが、なんてことはない、ちょっと田舎町にゆけばチリ紙交換の軽ットラから拡声器で流れてくるピアノ曲である。割れた音で。 訳あってワタクシは、梅雨時の日野市を歩いていた。腹がすいたのでそこへ入った。 昼過ぎの軽い灰色の時間。何料理であれ、お店のBGMでボサノバのような涼し気な […]

<36>コキのペンギン

  • 2007.01.27

アルゼンチンから戻った。ほぼ2ケ月、ひさしぶりの長旅だった。 リリアナ・エレーロにくっついて、真夏のチャコという町へ歌いに行った。死ぬほど暑く、死んだかと思うくらい蚊にさされた。 ワタクシは普段、文句も少なく恨みは2時間もすれば思い出せなくなる。恨んだことはしばらく覚えているが、何をどのように恨んだのかが、くやしいくらいに思い出せない。が、蚊とタバコに関しては文句も恨みごともたっぷり、神経質なほう […]

<35>秋のはじまり

  • 2006.09.03

友人Bがしばらく日本に来ていたが、さっき、旅先の北海道からおそろしく聞こえの悪い電話をよこして、明日国へ帰ると云う。 Bはガサっとしたスペイン語で、なにやらいいたいことだけ早口で喋ると、『じゃあね、良く聞こえないから切るよ、アキ、元気で、今度は国を出る前に日本へ行くって連絡するから、アディオス』と切ってしまった。 私が喋ったことといえば、昼間東京では結構大きな地震があって上からモノが落ちた、という […]

<34>夏、家をあける

  • 2006.06.25

夏は特別な季節だ。子供の時のなごりかも知れない。つまらない学校に行かなくていい、誕生日がある、日が長い、お祭りがある、花火大会がある。こんなゴールデンな季節が他にあるか、と思った。 おかげで、いまだに夏は特別な季節だ。窮屈な上着を着なくていい、だからどこへ行くにも荷物が軽い、日が長い、お祭りもある、花火大会もある。誕生日はそんなに嬉しくもなくなったにしろ。 すっかり大人になった今、ありがたいことに […]

<33>東京について

  • 2006.02.12

考えたら、私はもう東京に長く住んでいる。生まれは地方だ。高校卒業と同時にひとり東京へ、ふつうに出てきた。 2年前、私はブエノスアイレスにいて、なんだかとても気の合う友人ができ、その人に、東京で暮らすのは好きか?と聞かれた。何年も考えたことがなかったことだから、そういえばどうなんだろう、と2、3秒考えたが、好きだ、と口が勝手に答え、意外だった。 そうだ、そう云えば私は東京が好きなのかもだぞ、と地の球 […]

<32>また、正月のこと

  • 2006.02.03

子供のころ、百人一首が好きだった。 同じ日本語なのに自分の使うのとまったく違う響きがあって、ヘンなの、と思いながら興味をもった。100コ集まって一つのもの、というのも特別な感じがした。 祖母が『歌会』に入っていた。 うたかい、じゃなくて、カカイ、と呼んでいてクールだった。ときどき南向きの6畳の祖母の部屋に集まっては、おばあさんたちが試験前の女学生みたいに紙を拡げていた。 祖母は、ほんとうに女学生み […]

<31>蛍光灯と白熱灯

  • 2005.12.07

多感な頃は、蛍光灯の光が嫌いだった。世界が寒々しく見え、ただでさえ辛いこの世をより辛いものにしている、と思った。 私は若かった。というよりも、元気だった。 もとより視力の良い私は、早く老眼になるよ、と云われてきた。そしてこの頃、『初恋』を『初老』と読み間違えたり、『物腰』が『横綱』に見えたりして、さっぱり意味がつながらず、本など後戻りしつつ読むようになった。 始終目の奥がチカチカしていて、物事に集 […]

<30>ひそかに

  • 2005.10.14

10月のある日。 このところ忙しくてバタバタしていて、このままだとどうにかなってしまう、と思い、ぜいたくな1日を密かに用意しておいた。 先月のはじめ、1万2000円のチケットを買った。1万2000円。とある男子に一緒に行かないか、と誘ったが、『行ってみましょうかね』と返事をもらったときには、もう売り切れていた。 誰にも会わない日、というのも新鮮でいいな、と、私は向かったのだ、フィギュアスケート観戦 […]

<29>リベンジ

  • 2005.06.14

久しぶりに寝込む。 ライブや仕事が立て込んで、ひと段落したところでうまく発熱した。こういうとき、宇宙の愛のようなものを感じる。ああ、これがライブのない日で良かった、と。1週間ほど本番は入ってないから、焦ることもなくゆっくり休める。もちろんその1週間にやるはずだったことは、あとからツケが来ることは来るが。とにかくライブじゃなくて良かった、と。 そう云えば、何年か前、過労ぎみだったところへタバコの煙を […]

1 6 9